2020年4月21日火曜日

11. まとめ 新興感染症に対する,中国・韓国・台湾の取り組みを紹介し,わが国の政策と対比した。『傷寒論』以来,感染症に対して漢方は長年の知見の蓄積があり,中国,台湾,韓国では積極的に使われている。柴山が教員を務めていた中国・天津は東京よりも人口は多いが,4月3日時点で感染者数は180名,死者は3名である。天津中医大学の医師が予防に努めて第一線で働いている。こうした新興感染症は今後も繰り返すことが予想されるが,ウイルスを標的にした治療薬やワクチンが開発されるまでの時間稼ぎとしても伝統医療をわが国で積極的に用いる体制が確立されることを切望する。 ウイルスは次から次へと変異を繰り返し,新薬開発とのいたちごっこを繰り返すことは細菌と抗菌薬との競争の歴史を見ても明らかである。むしろウイルスの変異の方が劇的であり,人類の知恵がそれに追いつくのは困難である。漢方治療の標的はウイルスそのものではなく,ウイルスを攻撃する生体防御能を向上することである。その意味において新興感染症が起きた際に,ウイルスの種類を問わず,最前線の薬として活用でき,そこで時間が稼げればワクチンの開発が間に合う。 本稿執筆時点で大都市圏ではCOVID-19のオーバーシュートが間近に迫っている。中国,台湾,韓国における感染制御にどの程度伝統医療が貢献したかは現在は明らかではないが,その成果の発表を待たずにわが国でも漢方の活用を考えるべきではないだろうか。 〔謝辞〕台湾国家中医薬研究所のガイドラインの翻訳を手伝ってくれた慶應義塾大学医学部漢方医学センターの呉知峰氏,于海莎氏,廉方儀氏に感謝申し上げます。

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