2020年4月21日火曜日

2009年新型インフルエンザ流行時の漢方治療 2009年の新型インフルエンザ流行時には麻黄湯が奏効した。麻黄湯は麻黄・桂皮・甘草・杏仁から成り,2世紀に書かれたとされる『傷寒論』の処方である。若い人の感染が多く,潜伏期間が短く高熱を発し,まさに麻黄湯の証であったため奏効率が高かったと考えられる。我々は季節性インフルエンザに対する麻黄湯のシステムレビューを行い,ノイラミニダーゼ阻害剤に対して非劣勢であり1),経済効果も高いことを示している2)。新型インフルエンザ流行時には,麻黄湯で効果があると報道されると同時に,あっという間に市場から麻黄湯が消失した。麻黄湯はせいぜい2日,長くても3日飲めば奏効し,長期服薬は却って不利益が多いが,この時は1週間も2週間も処方する医師が多く存在し,論文化する際に,漢方の専門知識の普及を一つの課題として挙げざるを得なかった2)。 3. 新興感染症に対する中国の対応 2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行時には中国政府主導の中医薬介入はなかった。フランクフルト大学からは甘草の成分であるグリチルリチンがSARS複製を抑制するという論文が出た3)。一方,2009年の新型インフルエンザの際の中国政府の動きは速かった。政府主導で連花清瘟カプセルをつくり,治療に当たった。構成生薬は連翹・金銀花・炙麻黄・炒苦杏仁・石膏・板藍根・錦馬貫衆・魚腥草・広藿香・大黄・紅景天・薄荷脳・甘草で,麻杏石甘湯と銀翹散を組み合わせた内容になっている。その使用経験は米国内科学会誌に掲載された4)。新興感染症に対し,積極的に中医診療を導入し,その結果を論文化する流れがここでできた。 COVID-19に対して,中国政府は国務院通知として,「新型冠状病毒肺炎診療方案」を発表している。3月3日に発表された最新の「試行第七版」でも中医治療の詳細なガイドラインが示されている5)。今回は新たな処方である「清肺排毒湯」を開発し,積極的に現場で使うよう政府が主導した。既に2月19日には国家中医薬管理局が,10省57病院で確認されたCOVID-19患者701例に対する「清肺排毒湯」の治療成績を発表している6)。それによると130例が治癒・退院し,51例は症状が消失,268例は改善,212例は悪化しなかった。結論として,COVID-19治療に優れた臨床効果を持つ,として開発の経緯が記載されている。学術的な評価は,いずれ英文学術誌に掲載されるであろう。 このように,中国においては,政府が主導して新興感染症に対する中医薬を作成し,それを使うことに,西洋医学の医師も患者も抵抗がない。それだけ信頼度が厚く,活用されているのである。

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