2020年4月21日火曜日

9. COVID-19に対する漢方治療活用の実際 日本の医療事情を考えると,重症化した患者の治療を漢方で行うのは現実的ではない。漢方が貢献できるとしたら,以下の2つの状況下においてであると考える。①ハイリスク患者の感染予防,②軽症患者の重症化予防。 ①のハイリスク患者の感染予防は,漢方治療で最も重視する「未病の治療」である。『黄帝内経』の説く「気を増す」,すなわち生体防御能を増すことが漢方の役割と考える。 台湾のガイドラインにあるように,伝統医療治療の原則は個別化であり,それぞれの年齢,体力,疾患背景により異なる。そのため,漢方に詳しい医師の診断が必要であるが,逼迫した状況下においては,ある程度割り切って記載することをお許しいただきたい。 まずは生体防御能を増すためには,日々の「養生」が何より大切である。当たり前のことであるが,正しい食事・適度な運動,十分な休養が基本である。それに加えて,漢方では徹底的に冷えを嫌う。冷たい飲食物を避け,適切な衣服で体を温める。生姜汁などもよい。暴飲暴食は最もよくない。胃腸が弱ると防御機能が弱ると考える。 その上で高齢者は,玉屏風散に加えて補中益気湯,十全大補湯,人参養栄湯といったいわゆる補剤を考慮する。胃腸機能が弱っていれば四君子湯,六君子湯,茯苓飲などを用いる。現場の第一線で感染リスクに暴露されている医師には補中益気湯をお勧めする。 食薬区分の「専ら医薬品」には分類されない薬用人参,霊芝,冬虫夏草,板藍根などは免疫を高める生薬を入手して服用することもできる。漢方薬は飲みたいが医療機関に行きたくない,という知人にはこうした物を勧めているが,既に品薄のようである。インターネットなどでは品質の悪いものが高値で売られることもあるので信頼のおけるものを購入してほしい。 ②の軽症患者の重症化予防は,感染徴候が少しでもあったら,ごく初期の症状を見逃さずに早めに葛根湯,麻黄湯を服薬する。高齢者は熱産生が弱いので麻黄附子細辛湯が良い。 COVID-19は上咽頭のみならず,気道の奥深く肺胞に達するところで増殖し,症状が出てから一気に悪化すると言われている。そうすると発熱を認めた時点で,葛根湯・麻黄湯では対応は不可能と考える。柴葛解肌湯か柴陥湯を処方する。柴葛解肌湯は葛根湯と小柴胡湯を合方すると近いものができる。生薬治療が可能であれば中国で既に効果が実証されている清肺排毒湯を処方するのがよい。 我々が動物実験で示してきたように,感染はウイルスの増殖スピードと生体防御能の競争である。重症化する前に本疾患の山場があると考えた方がよい。早め早めに適切な漢方治療が必要である。その上で改善徴候が見られなければ入院のタイミングを逃さないようにすることが肝要である。本稿執筆時に国から,感染が拡大している地域では,軽症者は自宅またはホテルで療養する,という指針が出された。ここで重症化を防いで回復させることが,医療崩壊を防ぐ最も効率的な方法であり,漢方薬の重要な役割と考える。

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